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カルミンとアスピリンのお話 [その他]

アスピリン.jpg ぼんくら少年にはフランスに住みついた叔父がいて、彼が帰国する度に、まだ見ぬ異国の話を夢中になって聴いたものだった。それにもまして興味津々だったのは彼の旅行鞄の中身で、彼が引っぱり出すフランス製の歯磨き粉のチューブやオーデコロンのビンは、好奇心を抑えられなくなるほどの怪しい魅力を放っていた。一男一女を遺し、40才の若さでリジューで病死してしまった叔父だったが、痩身で長身の体に染み付いたコロンとパイプ煙草の匂いは今でも鮮明に覚えている。
 ぼんくら少年が叔父の持ち物の中で特に関心を持っていたのは、生来の頭痛持ちだった彼が常時携帯していたアスピリンだった。アスピリンとはいっても普通の錠剤ではない。水に溶かして飲むタブレットのほうだ。コップの水に白いタブレットを入れると、タブレットがくるくると回りながら大量の泡を出して溶けていく。飲むと分かるんだけど、アスピリンの成分を含んだ炭酸水になっちゃうんだな。胃に優しいしすぐに効くってことだった。
「美味しそう! 飲ましてぇ♪」
「ノンっ、ダァ~メ! 後でコーラを買ったげるから、ね」
カルミン.jpg 当たり前だよね、薬なんだもの(笑)。だけど、ぼんくら少年には何故かアスピリンのタブレットとカルミンがダブって、あれは美味しいものに違いないっていう妄想が徐々に膨らんでいったのだった。そしてある日、ついに叔父のコートのポケットからタブレットを一つ失敬し、その場で水にも溶かさずにパクリと口に放り込んだのだ。突然、舌に強い刺激がして、発生した泡で苦いような酸っぱいような味が口中に広がり、咳き込みながら床に吐き出してしまった。薬はクスリなのであってお菓子ではないということを思い知った体験になったわけだけど、咳は止まらないわ涙は出るわ、それはヒドい味だった。
 後でタブレットが足りないことに気付いた叔父が、
「分かったかい、もう薬で遊んじゃダメだよ」
 と優しくたしなめてくれたときは、叔父にしがみついてワァワァ泣いてしまった。叔父に強く叱られなかったことが嬉しかったんじゃなくって、盗みを働いた自分を深く恥じたからだった。
「カルミンみたいに美味しいのかと思ったのに」
 と言ったら、近所のスーパーに連れて行ってカルミンを買ってくれた叔父。叔父さん、ありがとう。


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七夕

ひゃー、下記の切符の鋏の音、懐かしい(^o^)丿
そういえば、母は今でもアスピリンが好きです。

七夕は昔、アイスキャンディーを落っことして、泣いて
しまったことがあります(笑)

ぼんくら少年、カルミンを買ってもらって良かったですね(^o^)
by 七夕 (2009-08-19 17:39) 

ファジー

この記事を読んでいて子供の頃の辛い記憶がよみがえりました。

たしか「マウスペット」でしたかね。緑の液体でミントの香りがする口腔清涼液がありましたが、幼い弟の口に入れてやろうとしたら、手許がずれて、この液が彼の目に入ってしまいました。

すると彼の泣き暴れだすこと尋常でなく、転げまわって痛い痛いと大声でわめいていました。

大変なことをしてしまったと青ざめました。あわてて彼を抱きかかえて流しで水道水をぶっ掛けて事なきを得ましたが、そこには、死んだり失明したらどうしようとビビッてした幼い小生がおりました。

その後「お母さんには絶対言うなよ!」と厳しく緘口令を敷いたのはいうまでもありません。
by ファジー (2009-08-19 17:49) 

牛子

こんばんは~、
いいな~ぼんくら様、素敵な叔父様との思い出があって…何だか、この一人の叔父様の存在で、
実はぼんくら様の御両親は美男美女で、
で、その息子であるぼんくら様は…!?
だってこの叔父様の甥っ子ですよ、ぼんくら様(@@)!
by 牛子 (2009-08-19 18:22) 

ケセパタちゃん

ぼんくらオヤジさん、こんにちは。
怒るだけで、子供のフォローができない大人が
多いのに素敵なおじさまですね。

カルミン、覚えています。
小さい頃、食べたかったのは、
実家の父は梅仁丹を愛用していて、風邪をひくと、
なめさせてくれました。
あぁ~懐かしいなぁ~

by ケセパタちゃん (2009-08-19 18:28) 

ぼんくらオヤジ

七夕さん、お母さんが「アスピリンが好き」って、
ホントにお菓子みたいにボリボリ食べてるみたいじゃないですかぁ!(笑)

アイスキャンディを落として泣いてる姿、目に浮かぶようです♪
ちょっと悲しい、でも懐かしい光景ですねぇ^^
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 21:02) 

みおのとおちゃん

カッコイイ叔父さんですね~。
そういう対応をスマートにできる大人でありたいと
思いつつなかなかできません。
やろうと思ってするんじゃなく、体からにじみ出る物なんでしょうけど・・・・。
by みおのとおちゃん (2009-08-19 21:24) 

ぼんくらオヤジ

牛子さん、たしかに叔父は美男でした♪ 残念ながら、ぼんくらは母親似で
この叔父とは似ても似つかぬ容姿と相成りました^^;
優しく信仰深い人でしたから、現地での人望も厚くお墓に花が絶えないのだと
神父様が教えてくれたときは涙が止まりませんでした。彼の息子は今や
叔父とそっくりの性格で遺伝の凄さを感じます(笑)
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 21:29) 

ぼんくらオヤジ

ファジーさん、書き込んだはずのコメントが消えちゃいました(泣) 再チャレンジ!
しかし怖い思いをされましたねぇ^^;
弟さんは単に異物が飛び込んで目に染みたので驚いた
ぐらいのことだったのでしょうが、転げ回られたら堪ったもんじゃ
ないですよね。それにしてもよく冷静にその後の処置をされ
ましたね、さすがにファジーさんです。
ところでかん口令のほうは守られたんでしょうか(笑)
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 21:35) 

ぼんくらオヤジ

ケセパタちゃんさん、たしかに叔父は立派な人でした。
彼の息子・娘もまったく同じように自分の子供たちに接しています。
そのせいですかねぇ、ぼんくらの子供たちとは比較にならないほど
温厚で落ち着いています^^; 違う者同士でウマが合うのか、
親同士・子同士も仲がよく、数年おきに互いの家を訪ねあっていますよ♪

梅仁丹ですかぁ! あれは普通の仁丹と違って美味しいですから
子供にあげることができたんですよねぇ。人って不思議ですよね、
凄いご馳走のことは覚えてないのに、仁丹やカルミンのことは
覚えてるんですから^^
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 21:47) 

ぼんくらオヤジ

みおのとおちゃん、何を言ってるんですかぁ^^;
みおちゃんがあんなに立派に育ってるってことは、
とおちゃん業を立派にこなせてるってことじゃないですか♪
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 21:50) 

ばぁちゃん

なんていやしい・・・

きっと、そのアスピリン自体も
安価ではなかったでしょうに・・・

今でもやっちゃいそうな雰囲気が漂っていますか(--;

美味しそうでも、人の嫁は食べちゃいけませんよ!
by ばぁちゃん (2009-08-19 22:23) 

peace9314

カルミンとアスピリンって
ほんと 見た目そっくりですね┌(Y ^ ^ Y)┘
by peace9314 (2009-08-19 22:55) 

ぼんくらオヤジ

ばぁちゃんさん、品行方正・眉目秀麗・家内安全なオヤジを捕まえて
失敬なっ! 怨霊退散~!!
(業務連絡)できれば嫁とか元嫁じゃないほうが…
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 23:07) 

ぼんくらオヤジ

peaceさん、日本では売ってないんですが、
この水に溶かすアスピリンのレモン味があって、
これがまた美味いんです♪ 
あれなら何杯でもいけますね! (結局変わってない^^;)
by ぼんくらオヤジ (2009-08-19 23:10) 

井上酒店

アスピリンと言うと、何とか耳にはしていたんですが、実際にどう言うものか今知りました。無知ですいません。なんか歌詞とかでも良く出てきますよね。そう言う物に興味を持つって、なんか凄いですね。そう考えてると、僕は普通の子供だったのかも知れませんね。カルミンは知ってるような?知らないような?ハッカのお菓子ですかね?
by 井上酒店 (2009-08-19 23:46) 

まさみん

カルミン。知っています。もう売っていないのですかね。
昔のお菓子って薬に似ているのが何故か多いですね。
ラムネを子どもの頃、お薬と言ってふざけていました。
by まさみん (2009-08-19 23:56) 

ぼんくらオヤジ

井上酒店さん、よっく訊いてくださいました!
カルミンは炭酸カルシウム入りミントから名前がつきました。
ですからミント味ですね♪ なんと大正10年(1921)に販売を
開始した由緒あるお菓子なんですよ。歴史的名コメディアンの
ハロルド・ロイド(ロイド眼鏡のロイドです)を宣伝に起用したという
あたりも破格のハイカラなお菓子でした。スーパーのお菓子コーナーには
必ずといっていいほど置いてありますから、大正から続くお菓子の
王道をぜひご賞味ください! 優しい味です♪
by ぼんくらオヤジ (2009-08-20 00:04) 

ダー

何かにつけて・・・カルミンでした♪ (≧∇≦)ブハハハ!

by ダー (2009-08-20 08:08) 

ぼんくらオヤジ

ダーさん、カルミンって、なかなかお洒落なお菓子でしたよね♪
今や当たり前ですが、ミント系のお菓子が好きだなんて男の子は
そうはいませんでしたから。
by ぼんくらオヤジ (2009-08-20 08:31) 

ぼんくらオヤジ

まさみんさん、お越しくださって嬉しいです♪
先の井上酒店さんへのコメントにも書きましたが、今でも
当たり前のように売られています^^。ご指摘の通り、
カルミンもラムネも薬みたいですねぇ、なんでだろう(?_?)
あんまり見かけにこだわらなかったからでしょうか、ん~
我ながら説得力がないなぁ! でも大正時代に子供たちの
カルシウム摂取を考えてお菓子を考案したなんて、先進性を
感じますねぇ♪

by ぼんくらオヤジ (2009-08-20 09:03) 

空楽

素敵な叔父様ですね^^
ぼんくら少年は好奇心が強くて、
きっとお母様は大変でしたでしょうね。
by 空楽 (2009-08-20 10:45) 

ねこのこね

カルミン……あった確かにありました!
包んである銀紙の記憶もある!でも味の記憶がない……
いい思い出と一緒だと忘れないものですね。
by ねこのこね (2009-08-20 11:21) 

ぼんくらオヤジ

空楽母さん、仰る通りぼんくら母は大変でした。
「アンタのしでかしたイタズラのおかげでどれだけ苦労したか」
と未だに愚痴られます^^;;; HNの「ぼんくら」は、
少年時代に、ご近所から「またあのぼんくら息子か(怒)」と
呼ばれていたことから付けました。
by ぼんくらオヤジ (2009-08-20 20:12) 

ぼんくらオヤジ

ねこのこねさん、カルミンは淡いミント味の舌に優しいお菓子です♪
でも銀紙の記憶があるっていうのは凄いですね。あの銀紙、
さりげなくカルミンの特徴になってるんです。今、大人のアイテムとして
バッグにしのばせていたら意外にカッコいいかも♪
by ぼんくらオヤジ (2009-08-20 20:21) 

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