うまい棒と弟のお話

　ぼんくらオヤジが大学生の頃の話だ。
　７つ歳の離れた弟は、兄貴が心配になるぐらいおっとりした心優しい少年で、駄菓子屋に行くと、自分の小遣いで必ず家族分のお菓子を買ってきてくれるような子だった。
　彼が小５の時だったんだけど、母に、
「最近、Ｙ樹（弟）がね、ちょっと変なのよ。お小遣いを渡しても次の日には全部使っちゃってるみたいなの。本人には聞いたんだけど、全然答えてくれないのよ。心配だから、様子を見てやってくれない？」
　と頼まれたことがある。あんな気立ての子だから、悪い友達に巻き上げられてるんじゃないだろうか？　でも家では普段と変わらず楽しげにしているし。
　ある真夏の昼下がりのこと、新宿をぶらついていたぼんくらオヤジは愕然とした。地下道で弟がホームレスのおじさんと親しげに言葉を交わしている姿を目撃したのだ。気が付かれないようにそっと様子を見ていたら、弟は何人もの浮浪者に声をかけてはデイパックから何かを取り出して手渡ししている。
「Ｙ樹」
　異様な光景に我慢ができなくなって声をかけたら、弟は身を固くしてうつむいてしまった。何をしていたのかを尋ねても答えようとしない。デイパックに何が入っているのかを問いただしても答えない。力尽くでパックを取り上げて中を覗き込むと、クシャクシャのハンカチやロザリオと一緒に『うまい棒』が５、６個、無造作に放り込まれていた。弟が何をしていたのかを諒解した途端、涙が込み上げてきちゃった。照れ隠しで弟の頭を力一杯抱きしめて振り回しながら、
「バカだなぁ、お前は！」
　って言うのが精一杯だった。本当は跪いて十字を切りたいぐらいだったけど。その代わりに明大前に連れ帰り、駅前のパーラーでフルーツパフェをご馳走したよ♪　
　後で両親に話したところによると、弟は遡ること半年ほど前に天に召された飼い猫の死にどうしてか責任を感じて、その“償い”をしていた由。身近に起きた初めての死に余程のショックを受けたんだろうね。父に諄諄と諭されて安心したのか、その後そういうことはしなくなったんだけど、新宿の暗い地下道を行き来していた弟は、間違いなく「天使」だった。
　弟の配っていた『うまい棒』は、株式会社やおきんが昭和54年(1979)に発売した棒状のスナック菓子だ。お菓子の長さは原材料費の価格変動で変わるものの、値段は１本10円のまま、現在も健在だ。パッケージに描かれているキャラはドラえもんじゃないよ。昭和53年(1978)９月13日生まれで乙女座のＡ型、遠い宇宙のどっかからやってきた異星人で、趣味はコスプレ(笑)。名前は特に決まってないけど、巷では「うまえもん」「ドヤエモン」「うまいBOY」などと呼ばれている。味の種類は現時点で、とんかつソースやサラミ味など15種類。出たての頃は明治のアイス『うまか棒』と名前が酷似していることからいろいろと揶揄もされたけど、30年以上が経った今でも子どもたちに愛され続けている。


■フォーレ「ラシーヌの雅歌」　弟よ、小さい頃からよく聴いていたね。付け足しになっちゃって悪いけど、記事に事後承諾を与えてくれた御礼に捧げます■

http://www.youtube.com/watch?v=tzhBr1T-LHc

タグ：うまい棒 駄菓子屋 新宿 地下道 ホームレス うまえもん やおきん うまいBOY ドヤエモン うまか棒

コメント 25

天使だね　泣けてきました
by MARS (2010-03-12 20:42) 

なんともナイーブでで優しい弟さんですね。久々にいい話を聞きました。
by nougyoujin (2010-03-12 21:02) 

松田道雄さんを真似して言いますと、
生まれながらに世の中を美しくするような
弟さんのような子どもがいるものですね。
お母様の対応も、ぼんくらオヤジさんの反応も素敵です。

うまい棒…遠い地方の学校に入った、無駄遣いの多い甥っ子が、
「朝からこれしか食べていない」と、
私に写メールを送ってきたのがうまい棒でした。
（例のごとく、うまい棒を初めて知ったのはそのときですが）
「頼むから、同情して送金などしてくれるな。」と、
兄からきつく言われていた私は、
兄に甥っ子の「窮状」を報告するにとどめましたが、
以来、お菓子売り場で、うまい棒を目にするたびに
胸がちくっと痛みます。

by やなぎはっか (2010-03-12 21:18) 

いい話だなぁ(┯_┯)ウルルルルル
by peace9314 (2010-03-12 22:58) 

その弟さんは今どうしてるのですか？
まず与える人は豊かになるという法則があります。
心が豊かでないと与えることはできませんから。
必然的に富も集まってくるようです。

うまい棒、子供が好きでした。
by ixion (2010-03-13 00:10) 

なんて優しい・・・
by tamanossimo (2010-03-13 02:54) 

おはようございます。
なんとも優しい弟さんですが、弟を心配して思いやる兄の愛情がすごく感じられます。こういった感性の豊かさが人を惹きつけるブログに表れているのでしょうね。
それに引き換え、最近の世の中のなんと荒んだことか・・・
by 課長 (2010-03-13 11:21) 

とっても優しい弟さんですね＾＾
とても感動しました。
by ケロリ (2010-03-13 12:19) 

とっても素敵な弟さんですね。
私、一人っ子なので羨ましいです。
by 空楽 (2010-03-13 14:38) 

うるうるしちゃいました。
なんてやさしい弟くん。
ぼんくらさんの対応もステキ[__揺れるハート]

暖かな気持ちあふれたお話…感激です。
by ｃｈｉｋａ♪ (2010-03-13 17:18) 

[メール]MARSさん、子供の頃は純粋に考え動くことが許される貴重な時期ですよね。「自分は果してそんな機会を大切にできたろうか」と昨日から自問してるんですが、兄貴のほうはどうも…（笑）
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:33) 

[メール]nougyoujinさん、仰るとおりで、弟は大変にナイーブで優しい子でしたが頑固なところもあって、ぼんくらとひとつ下の妹は結構、手を焼くことがありました（笑）。でも怒れないんですよ^^;　歳が離れてるってこともあったんでしょうが、ついベタっ可愛がりしちゃって。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:33) 

[メール]やなぎはっかさん、弟は今でもそうですが極めてカルメル的な霊性を持っている人で、キャッキャッと騒いでいたかと思うと、長いこと自室や車庫の段ボールハウスにお籠りして静かに時間を過ごすようなところがありました。父と親交のあった奥村一郎神父様からご復活のラウレンシオ修士の名を霊名に頂いたことが関係してるんでしょうか（笑）。甥子さんのこと、拝読して思わずニンマリとしてしまいました。ぼんくらも大学２年生になって全く必然性のないひとり暮らしを始めたんですが、自活に不慣れな頃にお金の入る予定日よりも２週間も早く生活費を使い切ってしまって往生したのを思い出したんです。あの時はバイト先のスーパーでお客さんが捨てて行ったキャベツの葉っぱの外側をしこたまもらってきて、大鍋にチャルメラ一袋とその葉っぱを大量に放り込んだものを煮込み、朝昼晩と食べて飢えをしのぎました^^;　たまたま遊びに来た妹に「バカじゃないのっ（怒）」と一喝されてトンカツ定食をおごってもらったのをまだ覚えています^^;;;　まあ、そんな阿呆なことをやって大人になっていくんでしょう（笑）
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:33) 

[メール]peaceさん、ちょっとどころか相当に浮世離れした子で、付き合わされるほうは結構エライ目にも遭いましたが、兄貴としては自慢の弟でした♪　本人が40をとうに過ぎた今でも、やっぱり可愛いですねぇ^^
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:34) 

[メール]ixionさん、弟は現在、リバプールでＰ・マッカートニーが創設した大学でライティング（光のほうです）技術と色彩学の先生をしています。奥さんがアイルランド人なので、もう随分前にアイルランド国籍を取得しました。与えると必然的に富が集まってくるというのはユダヤ教の伝統的な発想ですが、ixionさんはどこでそうした思想を身につけられたんでしょうか（感心！）。弟はぼんくら以上に熱心なカトリック教徒なので、「はっきり言っておく。金持ちが天の国に入るのは難しい。重ねて言うが、金持ちが天の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい（マタイによる福音書19章23－24節）」と言ったイエスの言葉を地で行く慎ましい暮らしをしています（笑）。同時に「あなたがたは地上に富を積んではならない。そこでは、虫が食ったり、さび付いたりするし、また、盗人が忍び込んで盗み出したりする。富は、天に積みなさい。そこでは、虫が食うことも、さび付くこともなく、また、盗人が忍び込むことも盗み出すこともない。あなたの富のあるところに、あなたの心もあるのだ（マタイ６：19－20）」という言葉が直ぐに理解できるほどよい妻と子供達、そして友人知人達に恵まれています。ixionさんにどうお答えすべきかと弟のことを思い起こしていたんですが、もしかすると「与えることで心が豊かになるんじゃないか」とも思いました。上手く説明できませんが。いろいろと深く考えさせられる示唆に富んだご意見、本当にありがとうございました！　また折に触れてぜひ、ixionさんのお話、お聞かせくださいね♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:35) 

[メール]tamanossimoさん、全く兄貴や姉御とは似ても似つかない優しい弟です（笑）

by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:35) 

[メール]課長さん、弟のおかげで兄貴が褒められたようなもんですねぇ（笑）。でも褒められれば嬉しいです、感謝！　弟の行いに触れていつも感心していたのは、とにかく善い行いを為す時には他者に気付かれないように努めていたことです。父がよく言っていたからだと思うんですが「見てもらおうとして、人の前で善行をしないように注意しなさい。さもないと、あなたがたの天の父のもとで報いをいただけないことになる。だから、あなたは施しをするときには、偽善者たちが人からほめられようと会堂や街角でするように、自分の前でラッパを吹き鳴らしてはならない。はっきりあなたがたに言っておく。彼らは既に報いを受けている。施しをするときは、右の手のすることを左の手に知らせてはならない。あなたの施しを人目につかせないためである。そうすれば、隠れたことを見ておられる父が、あなたに報いてくださる（マタイによる福音書６章１－４節）」というイエスの言葉を幼いころに理解していたんでしょう。父がよく言っていた言葉を課長さんのコメントを拝読していて、もうひとつ思い出したんですが、私ら兄弟が泣くと「自分のために泣くのは止しなさい。でも他の人のためには大いに泣きなさい」とたしなめられたんです。他者の痛みを我が事として少しでも共有しようとする気持ちがあれば、世の中も荒みから解放されるような気もしますね♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:35) 

[メール]ケロリさん、弟の特技は他者と共感できることだと今でも思います。付和雷同するのではなく他者の痛みを解釈も分析もせずに痛みとして受け止める不思議な能力です。傑作だったのが、ぼんくらが手ひどい失恋をした時に、飯もろくに食わずに憔悴しきっている兄貴の手を取ってポロポロ涙を流してくれたことです。別に深く事情を話したわけじゃないのに、小学生の弟に大学生の兄貴が慰められちゃったんですから妹曰く「呆れてものも言えないお話」なんですが（笑）、その無言の慰めで立ち直れたことも確かなんです^^;　天性のヒーラーなのなか、アイツって。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:36) 

[メール]空楽さん、そうですねぇ、兄弟がいる身にしてみればひとりっ子は凄く羨ましい存在でもあるんですが、ひとりっ子の友達や従兄弟は、やっぱり空楽さんのように羨ましがりましたね。それでも、ぼんくらが見ていると、ひとりっ子の方って、血のつながりとは無関係に他者を家族のように受け入れる不思議な力を持っているように思えることがあるんですが、気のせいでしょうか？
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:37) 

[メール]Chika♪さん、ひとり立ちする子供たちを見送った両親がいちばん悲しがり、寂しがったのが、弟をイギリスに送り出した時だったと思います。兄貴に対しても、連絡先が分かればオーストリアにいようがカンボジアにいようが電話や手紙をマメにくれるような人でしたから、両親にしてみれば最後の子を送り出す以上の感慨があったんでしょう。今でも弟が音頭を取ってくれているおかげで、ずぼらな兄貴も姉御も事情の許す限り毎日、日本時間の23:30からSkype経由で母を交えてお喋りの時間を作っています♪　やっぱり兄弟の中にこういう人が一人はいてくれませんとね（笑）
by ぼんくらオヤジ (2010-03-13 18:37) 

感動しました！
弟さんの行動の理由が飼い猫の死にあったというところには、正直、驚きました。
子どもって無垢な心を持っているんだなぁと、あらためて実感。

今まで「ドラえもん」のパクリのキャラクターと思っていましたが（笑）、ちゃんとしたキャラクター設定もあったんですね。（＾＾；
by びっけ (2010-03-14 23:15) 

[メール]びっけさん、本当に仰る通りですね。子どもの持つ力ってどこに吹っ飛んでいくか分からないところがありますが、大人のように演繹の力を借りずに核心に飛び込んでいける素晴らしさがありますよね。弟は神父様方が「聖職者に」とラブコールを送ったぐらい優れて宗教的な人なんですが、根拠を求めずに信じることの出来る強い力を持っている点では、子どものまま大人になったのかと、びっけさんのコメントを拝読していて思いました^^　ドヤエモンですが、やっぱりパクリなんでは（笑）^^;
by ぼんくらオヤジ (2010-03-15 18:00) 

弟さん、偉い！！読みながら泣いちゃいました。
きっと今も心根の優しい弟さんでいらっしゃるのでしょうね。
それに素晴らしい兄弟愛ですね。
心温まるお話をありがとうございました。
by セッチー (2010-03-18 18:46) 

[メール]セッチーさん、返信が遅れちゃってゴメンなさい！　そうですねぇ、弟は昔も今も、、虫も殺せない人のまんまですねぇ（笑）。やんちゃな兄貴とは正反対の弟ではありました。歳が離れていましたし、性格も違っていましたから、ぼんくらはネコっ可愛がりしてました^^　もう白髪交じりの中年オヤジなんですが、こういう関係は変わってないですねぇ。Skypeのおかげで毎日のようにお喋りができるので、お互いに地球の反対側で暮らしてるとは思えませんしね（笑）。嬉しい時代になりました♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-22 17:35) 

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by モンクレールダウンジャケット販売 (2012-11-02 23:57)