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紅茶キノコ [社会現象]

紅茶キノコ1.jpg ぼんくらオヤジがウィーンで貧乏生活を送っていた1980年代後半の話だ。
 近所の食料品店で安い食料を物色していたぼんくらは思わず奇声を発してしまった。"KOMBUCHA"というラベルの貼られたペットボトルがあったのだ。色は薄い茶色で説明を読もうとしたんだけどロシア語でちっとも分からない。店のオヤジさんに訊くと、
「まあ、サワードリンクの一種だな。美味しいから飲んでみな。健康にもいいそうだから、お前さんみたいな顔色の悪い貧乏学生にはちょうどいいだろ」
 なんぞと余計なことを言う。初めはこれは日本の飲み物で海草を乾燥させて粉にしたお茶だと知ったかぶるつもりだったのが、すっかりその気も失せて、語気に押されるように買ってしまった。
 帰宅してパンとチーズにリンゴというささやかな夕食を摂り、神妙な面持ちで"KOMBUCHA"の栓を開けた。一瞬、ブラックチョコともトリュフともとれるような独特な香りが漂う。むー、これは昆布茶の匂いとは似ても似つかないぞ^^; 恐る恐る口を付けると、昆布茶じゃなかったけど覚えのある味が口いっぱいに広がった。どういえばいいのかな、酸味の強いレモンティーに年代物の紹興酒をちょっと混ぜたような味で、オマケに微炭酸ときたもんだ。決して嫌いな味ではなかったんだけど、これが何故ゆえ昆布茶なのだろうという疑問と、何故この味を知ってるんだろうという思いがグルグル頭を駆け巡って落ち着かなかったのなんの。
 翌日、大学の図書館で調べてみると、
「Чайный гриб(チャイヌイ・グリプ)。モンゴルで生まれた発酵飲料で主にシベリアで飲まれていたが、やがてヨーロッパでも薬用飲料として飲まれるようになった。乳酸菌や消化酵素、タンパク質分解酵素などを豊富に含み、免疫機能を高めることで知られている。20世紀初頭に日本の昆布茶と混同された結果、欧米では"KOMBUCHA"と呼ばれるようになった」
 とエンサイクロペディアには解説が出ていて、ビンに貯蔵された自家製の"KOMBUCHA"の写真が載っていた。ビンには布と思しき通気性のあるフタがしてあって、中に茶色い液体が入っている。その液体には大きなキノコのカサのようなものが浮いている…。ん? これって実家にあったような…。思い出したぞ、一時期、母が作っていた『紅茶キノコ』じゃん!
 1970年代の半ばに、健康ブームの先駆け的存在として大流行した紅茶キノコ。ハタから見れば腐っているようにしか見えない得体の知れない飲み物。口にすれば想像通りの酸っぱい風味。これを体にいいからと無理矢理飲まされた人もいるんじゃないだろうか。
紅茶キノコ3.jpg 昭和49年(1974)に出版された中満須磨子著『紅茶キノコ健康法(地産出版刊)』が火付け役となったブームだったけど、出版後半年余りで紅茶キノコの愛飲家は300万人に膨れあがったと推定されている。
 連日のようにマスコミが特集を組み、芸能人や各界の著名人が効能を謳う発言を繰り返したってこともあるんだろうけど、「右向け右」の体質が色濃かった昭和の日本人体質を思い出すねぇ^^; ぼんくらの母も例外に洩れず、砂糖を入れた紅茶に菌体を入れ、ガーゼでフタをしてせっせと紅茶キノコを作っていた。ぼんくらも弟妹もビンの中で徐々に乳白色の金の塊が成長していく様を眺めて面白がっていたんだけど、あんまり頻繁にビンを引っぱり出すものだから、
「キノコは明るいところが嫌いなのよ。だからあんまり出しちゃダメ」
 と母に注意されて、直ぐに食器棚の下に戻さなきゃならなかった。母は「キノコ」と呼んでいたけど、これは酢酸菌の作るぶよぶよしたセルロース(繊維素)で、酢酸菌と酵母菌の集合住宅みたいなものだった。
 好きとはお世辞にも言えない風味だったけど、母が皆の健康を気遣って作ってくれたものだからという思いで、みんな健気に文句も言わずに飲んでたな、父も含めてね(笑)。
 その紅茶キノコが突然、テーブルから消えた。昭和50年の秋だったと思う。なんでも作る時に雑菌も繁殖してしまうために却って身体に害をなす場合があるという指摘が朝日新聞に掲載され、その上、厚生省の「効果の実体は明確ではない」という肯定も否定もしないという国会答弁が失望感を煽ってブームが終わっちゃったらしい。熱しやすく冷めやすいとは、良くも言ったもんだね!
紅茶キノコ2.jpg 何だか悪者扱いされて忘れられちゃった紅茶キノコだけど、培養液の雑菌汚染については、現在では酸性化のためにほとんどの有害細菌は死滅し、繁殖が抑えられる結果、よほど不潔にしていない限りは大丈夫とのこと。なんだ、お酢と一緒じゃん! 生きた栄養素による一定の効能も期待できそうなんだけど、繁殖する酵母菌によって産生する成分が違ってしまうので、「紅茶キノコにはこれこれの成分があってこんな効能があります」と言い切れない厄介な側面もあるようだ。
 例えばナタデココ。あれってフィリピン産の紅茶キノコを熱処理したものなんだよ。火を通しちゃってるから薬効は望めないんだけど、おシャレなお店で頂いていたナタデココが、実は昭和の流しの下で繁殖していたブヨブヨの菌の塊だったなんて笑えるよね♪
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斗夢

世の中で流行っているものにはすぐに手を出す私ですが、紅茶キノコとナタデココだけは一度も口に入れなかった。
昆布茶はずいぶん飲みましたが^・^。
by 斗夢 (2010-03-18 18:25) 

miopapa

紅茶キノコ
姉が職場で習ってきて我が家にも・・・
でも、
あの瓶の中で育っている
薄茶色の物体を見てると
理科の実験室にあった
ホルマリン漬けの標本とダブって
私も、苦手で一度も・・・
by miopapa (2010-03-18 20:49) 

たろす

私のミーハーは母親似^^;
当然紅茶キノコも家にありました。でも気味が悪くて私はついに飲まなかったと思います。味に記憶がありませんので。
ある日突然見なくなったのは、雑菌説のせいなのか、母が飽きっぽかったからなのかは定かではありません。
…その後、私も酢大豆とかカスピ海ヨーグルトとかに手を染めましたよ~
by たろす (2010-03-18 21:15) 

ixion

ありましたね~。
あの不気味なキノコ。
母がどこから手に入れたのか、ある日食器棚の上においてありました。
当時はご近所同士で種キノコを分け合って手に入れてたような・・・
でも、飲めなかったです。
家中誰も手を付けなかったんじゃないかな。
それにしても当時の日本人の集団体質には、すさまじいものを感じます。
権威ある者が良いと言えば、盲目的に信じて猛進する。
一部の先進的な者がかっこいいと言えば、良さもわからず取り入れる。
集団から解離することを恐れていたように思います。
それだけ自分に自信が持てていなかったのかもしれませんね。
by ixion (2010-03-18 23:01) 

やっくんたっくんのパパ

紅茶キノコは飲むことはありませんでした
家族の誰一人として、作ろうとはしませんでしたし
あの、ブヨブヨとした物体が苦手でした
でも、あれから「ナタデココ」ができるとは!
これまた驚きです!
by やっくんたっくんのパパ (2010-03-18 23:22) 

井上酒店

紅茶キノコは全く出会いませんでしたね。ナタデココもちょっと苦手です。
by 井上酒店 (2010-03-18 23:34) 

ファジー

ナタデココと紅茶きのことが繋がっていたとは・・・輪廻転生を感じます(笑)
しかし、日本人の“瞬間湯沸かし器”的行動にも困ったものでした。
by ファジー (2010-03-19 07:26) 

ダー

記憶の片隅に・・・r(^ω^*)))

by ダー (2010-03-19 10:31) 

空楽

亡き父が体に良いって聞いてきて作ってましたよ。
私は見た目で駄目でしたけど・・・
ナタデココと繋がっていたなんて驚きました。
by 空楽 (2010-03-19 11:28) 

ケセパタちゃん

[__がく~]え~ナタデココってそうだったの~
知らなかった・・・紅茶きのことは、縁がなかったです。健康には、一関の百年茶!が定着していたせいだと思います。
百年茶 お飲みになった事ありますか?

実家では、カネヨンはあまり見たことがないです。そのかわり、ダスキンのSOSという名の
洗剤付きの、たわしがいつもありました。母のお気に入りでした・・・


by ケセパタちゃん (2010-03-19 14:37) 

BlogPetのぼんくら雪之丞

きょうぼんくら雪之丞は、先駆けした。
それでなっこで得体に乾燥したよ♪
でも、きょう、日本っぽい物色した。

by BlogPetのぼんくら雪之丞 (2010-03-19 15:06) 

ぼんくらオヤジ

[メール]斗夢さん、紅茶キノコって見た目がグロテスクというか、明らかに駄目になった飲み物そのものの見た目でしたもんね、お気持ちよく分かります^^; たしかに昆布茶のほうがいいや(笑)
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:28) 

ぼんくらオヤジ

[メール]miopapaさん、流行っていた時期には職場で講習会を開いたとこが結構、あったようですね♪ ホルマリン漬けとダブっちゃさすがに飲めませんねぇ(笑)
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:28) 

ぼんくらオヤジ

[メール]たろすさん、酸味のある味なのでフツーの子どもなら苦手だったと思います。ぼんくらの母は飲みやすいようにレモンの皮で香りをつけてくれましたので比較的抵抗感がなく飲めましたが。お母様に限らず、当時の日本人はおしなべて流行に流されやすく、直ぐに飽きちゃう傾向があったと思います。カスピ海ヨーグルトは我が家で健在ですよ♪ 妹が20年近く前に「密輸」してくれたタネを育て続けています。ただ1リットルの牛乳パックに適量を入れて常温で1~3日ほど放置しておけばヨーグルトになるので本当に助かっています^^
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:29) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ixionさん、ご近所同士で、職場でと、菌は人から人に渡って一時期の日本は酢酸菌と酵母菌の天下になったんですよね(笑)。仰る通りで、昭和の日本人は良くも悪くも集団で考え行動していく傾向があったと思います。もしかすると今もなりを潜めただけなのかもしれませんが。経済や政治が混迷を深めている昨今なだけに、こうして過去に経験した風潮は忘れないようにしなければ危険ですよね。口当たりが良かったり扇動的だったりする政治家や軍関係者、宗教指導者などについては、フラフラと盲信することなく平時以上にしっかりと監視をしていきたいと、ぼんくらも思っています。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:29) 

ぼんくらオヤジ

[メール]やっくんたっくんのパパさん、バクテリアが当を酢酸発酵させるとセルロースを排出します。まあいってみればバクテリアのウンチですね(笑)。紅茶キノコもナタデココもバクテリアセルロースの塊ですから、本質的には同じものといっていいと思います。ちなみに酢ができるときにうかぶバクテリアセルロースの存在は日本でも昔から知られていて「酢くらげ」などと呼ばれていました。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:30) 

ぼんくらオヤジ

[メール]井上酒店さん、ナタデココも苦手ですか^^; あれって食感が、自分の口の内側を間違って噛んだ時の感触と似てませんか(笑)
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:30) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ファジーさん、やっくんたっくんのパパさんへの返信にも書きましたが、両者ともバクテリアセルロースであるという点で同一のものだということができます。紅茶キノコに浮かぶブヨブヨも食べられるようなんですが、あれを上手く熱処理できれば自家製ナタデココが出来るんでしょうか? あんまり試したくないけど(笑)。そうですねぇ、まったく「瞬間湯沸かし器」ですねぇ^^; 過去の過ちを繰り返さないためにも、こういう習性を持っていることだけでも忘れずにいたいですね^^
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:31) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ダーさんは、それでも記憶をお持ちなんですねぇ! ギリギリでご存知ないんじゃないかと思ってました♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:31) 

ぼんくらオヤジ

[メール]空楽さん、紅茶キノコに浮かんでいるブヨブヨとナタデココは、熱処理をしたかどうかだけの違いで、どちらもバクテリアの排出したウンチの塊なんです^^; 紅茶キノコのような頂き方をすれば免疫機能を高める効果が期待できると欧米では言われています(日本の薬事法上、こんなふうにしか言えませんが^^;)から、お父様が飲んでおられたことは決して無駄ではなかったと思います。ぼんくらも膠原病で免疫システムがガタガタなので、チャンスがあればこの健康法を再度、試してみようかなと思っています♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:31) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ケセパタちゃんさん、精茶百年本舗の百年茶でしょう、知ってますよ! 母が大好きで、実家では一年を通じて飲んでいました。たしか外国暮らしの妹や弟に母が時折、ティーバッグを送っていると思います。そうかぁ、一関のお茶とは知らずにいました。教えてくださって感謝です♪ ダスキンのSOSも知ってます。スティールウールに石鹸成分を仕込んだやつですよね。五徳なんかについたしつこい汚れを落とすには本当に便利なアイテムだと思います^^
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:32) 

ぼんくらオヤジ

[メール]雪之丞、「なっこ」って何よ^^;? で、日本っぽいものは見つかったの?
by ぼんくらオヤジ (2010-03-19 17:32) 

Malia

日本でこの紅茶か紅茶作る為のキノコはどうか、買えますか?
アメリカでいつも飲んでいたが、絶対健康にいい結果があったと思うけど。。。韓国に住んでいた時キノコだけは買えましたが、日本でどうしよう!お店で、インタネットでも見つけません!本当に本当に飲みたくなっています~~ メール。誰かに教えていただけるのでしょうか。。。
by Malia (2011-12-09 13:30) 

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