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シッカロール [テクノロジー]

なく声の大いなるかな汗疹(あせも)の児   高浜虚子

シッカロール1.jpg かつて赤ちゃんや小さい子どものいる家なら置いてあったベビーパウダー。なかでも和光堂の『シッカロール』はベビーパウダーという言葉以上に普及していたように思う。
 シッカロールが世に出たのは明治39年(1906)のことだ。和光堂薬局の開設者である広田長博士と東京帝大の丹波敬三教授が共同開発したものなんだけど、原型は江戸時代の民間薬にまで遡ることができる。
 貞享2年(1687)の『女用訓蒙図彙』という女性向けの心得書に、
「はまぐりがいをやきて、うどんの粉と粉まぜて布につつみて、ふるいかけてよし」
 なんていう汗疹の処方が書かれるんだよ。
 また、貝原益軒の弟子でお医者さんの香月牛山は、
「牡蠣粉、或いは葛の粉又は天瓜粉(天花粉)をすり塗りたるがよし、かくのごとくすれば夏はあせぼを生ぜず、いずれも皆粉を随分細かにしてぬるべし」
 と、『小児必用養育草(元禄14年[1703])』で赤ちゃんの汗疹用の薬を紹介している。いずれも貝殻を焼いて粉にした無機物とデンプンを組み合わせたものってことだよね。無機物の微細な粒子は肌に付けると毛細管現象によって水分を吸収し、デンプンは適度な保湿作用を持つ。決して皮膚を乾燥させるんじゃなく、無機物の微細粉を介在させることで皮膚同士の摩擦を少なくし、汗疹を出来にくくするわけだ。
シッカロール2.jpg 発売当時のシッカロールも基本は同じで、成分は亜鉛華(酸化亜鉛)40パーセント、珪酸塩鉱物の一種であるタルク(滑石)が40パーセント、そしてデンプンが20パーセントだった。これを薬局の片隅にあった4畳半の部屋で乳鉢で混合しながら細々と作っていたんだそうな(笑)。
 シッカロールはその後、当時としては急速にその存在を知られ、赤ちゃんの必需品として普及していった。
 そのシッカロールも最近では、すっかり影が薄くなっちゃったよね。昭和62年(1987)にタルクの一部からアスベストが検出され、安全性に疑問符が付いちゃったのが痛手だった。これは現在は厚労省の管轄下で厳密な原料管理が行われていて今は問題とされていないけど、これがきっかけで、厚く塗っちゃうと逆に汗腺を塞いでしまったり、赤ちゃんが粉を吸引して肺にタルクを蓄積してしまう危険性などが指摘されるなど、逆風は収まらず、市場には次々にシッカロールに取って代わる製品が投入され、シッカロールはいつの間にか主役の座から滑り落ちてしまった。
 最近では乳幼児以上の子どもたちや大人が使用するケースが増えてきて、再び売り上げが伸びてきているとのこと。多汗質の人はもちろん、ジトジトした季節にはあのサラサラ感が心地よいと再評価をされてのことだ。赤ちゃんに使用する時と同様、汗疹やただれを起こしやすい部位に、パフなどで薄く、撫でるように、あるいは軽く押さえるように塗るのがポイントだそうだよ。先にも書いたけど、くれぐれも厚塗りは厳禁だからね!
 ちなみにシッカロールという名前は、ラテン語で「乾かす」を表す "siccus" に由来するとのこと。明治末としちゃえらくハイカラな名前だったろうね。
 
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s-img

懐かしいですね〜
このパッケージの子って今いくつでしょうね :-p
by s-img (2010-03-05 20:43) 

ぼんくらオヤジ

[メール]s-imgさん、この子が登場するのは、和光堂のサイトを見る限り恐らく昭和42年(1967)であろうと思います。だとすれば40代の前半でしょうか^^
by ぼんくらオヤジ (2010-03-05 21:12) 

たろす

私の子供の頃、夏のあせもにはシッカロール、冬のカサカサには桃の花でした^^
by たろす (2010-03-05 21:21) 

ケセパタちゃん

知ってます?お相撲さんはシッカロールの香りがするんですよ。巨体とシッカロールの組み合わせって面白いでしょ!?ちょっとした、
カルチャーショックですよね。
by ケセパタちゃん (2010-03-05 21:42) 

ファジー

私の子供の頃は、シッカロールなんて言いませんでした。母や祖母は、「お風呂上りには、てんかふん(天瓜粉(天花粉))つけたげよ♪」といって小生の腋や首周りにパタパタやってくれてました。
子供の耳には、「テンカフ」と聞こえてましたね。
by ファジー (2010-03-05 21:48) 

2601

懐かしー!
というか、実家の父愛用品なので今でも洗面所にあるはず。
昔はメンズ用サラサラシートなんて無いですもんね。
by 2601 (2010-03-05 22:40) 

タラオのパパ

これ、大人になっても塗ってましたよ。
夏汗で、ワキがこすれて真っ赤でしたから。
「ワキガ」では無かったです、断じて!
by タラオのパパ (2010-03-05 22:44) 

井上酒店

懐かしい・・・。我が家では天花粉と読んでましたね。風呂上がりに小さい頃は、汗疹が出来ないようにと、脇や股にポンポンと塗られたことを思い出しました。懐かしい思い出ですね。
by 井上酒店 (2010-03-05 22:56) 

tamanossimo

ままの匂い~♪
by tamanossimo (2010-03-06 00:05) 

わか

汗っかきの私は、年中お世話になっていました。
by わか (2010-03-06 08:10) 

ダー

なぜか・・・パルナスのCMを

             思い出しました♪ ヾ(^▼^*)ノ

モスクワの味~♪

by ダー (2010-03-06 08:32) 

みゆきママちゃん

ぎゃあああああぁぁぁぁああああ~
懐かしい
中身にデンプンも入ってたの
豆知識もらった(*^^*ゞ
by みゆきママちゃん (2010-03-06 13:36) 

momo

あ~懐かしい~~~
小さい頃 いつもお風呂からあがったら脇や首、腕、足の曲がるところに両親が塗ってくれてたの
をおもいだします^^
香りも好きでした。
ファジーさんのコメントで初めてわかりました。
てんかふんだったのですね・・・。
ほんとテンカフと今まで思っていました。
ありがとうございます(*^^)v


by momo (2010-03-06 16:11) 

権左ヱ門

懐かしいですね。
私はアトピー子だったんで
小さいとき母ちゃんに風呂上りに
天花粉・天花粉って言って
ぬってもらってましたね。
by 権左ヱ門 (2010-03-06 20:47) 

ぼんくらオヤジ

[メール]たろすさん、桃の花! 思い出させてくださって感謝です♪ ハンドクリームが今みたいにない時分には、子どもの手にも母が桃の花を塗ってくれましたね。これは記事にしなきゃ♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:18) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ケセパタちゃんさん、そうでしたか♪ 実は日本語Wikiのベビーパウダーの項に「力士がよく使用している」という記述があったんですが、それ以上のことが分からなかったので記事にはしていませんでした。おかげさまで裏がとれました。感謝です^^ じゃあお相撲さんはシッカロールと鬢付け油の匂いがしてるんですね。なんか赤ちゃんみたいだな、ホントに(笑)
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:20) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ファジーさん、記事にも登場する香月牛山も天瓜粉(天花粉)を記述していますが、キカラスウリのデンプンを用い滑石と合わせたものが天花粉です。こうした江戸から伝わる民間薬に目をつけたところが凄いですね。テンカフ、何かとても愛おしいものを感じます^^
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:21) 

ぼんくらオヤジ

[メール]2601さん、理容室では剃刀後にメンソレータムやメンタームを塗って、その後にシッカロールをポンポンとはたいてくれました。スーッとする上に触るとサラサラして気持ちいいんですよ♪ お父様のお話を伺って、またやってみたくなりました。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:21) 

ぼんくらオヤジ

[メール]タラオのパパさん、それは辛かったでしょう! シッカロールは効果がありましたか? ワキガには効果ないだろうけど(笑)
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:21) 

ぼんくらオヤジ

[メール]井上酒店さん、ファジーさんも仰ってましたが大阪じゃ天花粉と呼ぶ伝統があるんですかねぇ!? いいですねぇ、大阪ならではの独自性、これからも守られて言って欲しいです♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:22) 

ぼんくらオヤジ

[メール]tamanossimoさん、パパの匂いじゃなくてよかった(笑)
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:22) 

ぼんくらオヤジ

[メール]わかさん、そうでしたか。ぼんくらの弟も汗疹性だったので、通年でパタパタやってもらってましたが、赤くただれた首筋なんかをふと思い出しました。辛かったでしょうね。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:23) 

ぼんくらオヤジ

[メール]ダーさん、パルナスというと、ぼんくらは大阪万博を思い出します♪ ソ連館にあったレストランを運営してたのがパルナスだったので(笑)。もうなくなっちゃいましたが懐かしいですね。

ぐっとかみしめてごらん
ママのあたたかい心が
お口の中にしみとおるよ パルナス
甘いお菓子のお国のたより
おとぎの国のロシアの
夢のおそりが運んでくれた
パルナス パルナス モスクワの味
パルナス パルナス パルナス
 
そっとかみしめてごらん
愛のうるわしい心が
ふたりのほほにしみとおるよ パルナス
甘いささやき目と目でかわす
初恋のささげるパルナスが
ふたりを幸せに結んでくれた
パルナス パルナス モスクワの味
パルナス パルナス パルナス
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:23) 

ぼんくらオヤジ

[メール]みゆきママさん、たぶんシッカロールで使っているデンプンはコーンスターチだと思います♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:23) 

ぼんくらオヤジ

[メール]momoさんも「テンカフ」でしたか! いいなぁ、シッカロールなんて言わずにテンカフって改名すればいいのに(笑)。懐かしい香りと感触ですよね♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 18:24) 

ぼんくらオヤジ

[メール]権左ヱ門さんはアトピーでしたか。可哀想に。ぼんくらオバンの家系がアトピー持ちなので、間接的にですが、大変さはよく分かります。あー、 権左ヱ門さんも天花粉だったんですね♪
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 19:20) 

セッチー

昔、大阪出身の母が「てんかふん」って呼んでました(笑)御風呂上がりに、弟と並んで、母に首とわきなど汗のかきやすいところにパタパタしてもらいました。気持ちよかったですわ~^^あ、我が家にこのベビーちゃんの顔のシッカロール(写真上)ありますよ。私、いまだにサマータイムに首にパタパタしてますもの♪
by セッチー (2010-03-09 19:45) 

ぼんくらオヤジ

[メール]セッチーさん、やっぱり大阪の方が「天花粉」と仰ってるようですねぇ! あ、今も使ってるんだぁ^^ お手軽で効果的ですもんね♪ ぼんくらもそうなんですが、お母様の思い出と直結している方が多いので、なにかとてもキュンとくるお話を聞かせて頂いている思いでいます。
by ぼんくらオヤジ (2010-03-09 21:24) 

やす

これを開発したのは、私の父方の爺さんです(マジ)。
和光堂の研究所長だったのですが、歴史に名前は
残っていません。クヤシイでッス(古)!
by やす (2010-07-20 16:30) 

guild wars 2 gold

真新しい簡体パワーレベリング用白痴の。What Sort Of power leveling I Truly Really Want.
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by guild wars 2 gold (2013-09-17 22:30) 

Zi Xiu Tang Bee Pollen

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by Zi Xiu Tang Bee Pollen (2013-10-14 16:42) 

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