キース･ヘリング

　同世代で、しかも天賦の才から生み出された果実を与え続けてくれるアーティストがいるよね。ぼんくらオヤジにとってはキース･ヘリングがそのいい例だ。
　キースは昭和33年(1958)生まれだから、ぼんくらよりも学年はひとつ上になるかな。彼の作品に初めて接したのは、ちょっと記憶が怪しいんだけど昭和58年(1983)のアムステルダムだったと思う。
　ダム広場で人だかりがしていたので潜り込んでみたら、キースが特設の壁に絵を描くパフォーマンスをしていたのだ。音楽をかけるわけでもなく、ただ黙々と絵筆にペンキを付けては絵を描いている。シンプルな線画でプリミティブ・アートといっていいような絵なんだけど、初見でグッと引き込まれる何かを持っていた。
　それを観る人のほとんどが感じているらしく、ギャラリーの数は減るどころかどんどん膨らんでいく。当時、既に彼は注目度ナンバーワンのアーティストで、テレビ局も取材に来ていたぐらいだから、ホントに彼目当てに集まっていたのかもね。ぼんくらが見始めてから30分ほどで絵は完成し、ギャラリーからは歓声が上がったけど、キースはちょっと手を振っただけで、道具を主催者と思しき人に渡すと、そそくさと姿を消しちゃった。とってもシャイな男って印象を受けたんだけど、実際にその通りだったみたいだね（笑）。
　彼を生で見たのはそれが最初で最後だったけど、絵が心に焼き付いていたものだから、帰国してキースの作品が雑誌やブティックに氾濫していたのには度肝を抜かれた。もっと笑っちゃったのが、壁の落書きまでもがキースのイミテーションになってたことだ。少なくとも一時期の渋谷パルコ界隈はＴシャツからカップに至るまでキースの絵で埋め尽くされていた。それほどの人気だったのだ。
　キースがニューヨークの地下鉄構内で、広告スペースに勝手に紙を貼ってチョークで絵を描く『サブウェイ･ドローイング』を始めたのが昭和55年(1980)のことだから、たかだか数年で世界中に知れ渡ったワケで、それだけでも彼の人気の"異常さ"が分かるよね。
　ジャン･ミシェル・バスキアやアンディ･ウォーホルといった当時のトップ･アーティストとも親交を深めたりと短期間のうちに絶頂を極めたキースだったけど、酒と麻薬に同性愛という日々が肉体を蝕み、平成２年(1990)にエイズによって死去した。31才の若さだった。恋人をエイズで失ったことから始めたエイズ撲滅キャンペーンや恵まれない子供たちへの支援活動などを、病のもたらす苦しみの中、死の直前まで続けていたという天晴れな男でもあった。たとえ一時期であっても、彼のようなアーティストと同じ時間を歩めたことを、ぼんくらは心から幸せだったと思っている。

■キース、BMW Z1をカンバスにする。デュッセルドルフにて　1983年■

■リヨンのキース･ヘリング展　BMW Z1らしきものがありますね♪　2008年■

タグ：アンディ･ウォーホル ジャン･ミシェル・バスキア サブウェイ･ドローイング キース･ヘリング エイズ エイズ撲滅キャンペーン

コメント 29

キース･ヘリングのアートTシャツ今でも愛用してますよ。
年齢・性別関係なしに着用できるデザインが嬉しいです[__揺れるハート]
by ファジー (2009-11-15 16:44) 

キース･ヘリングは大好きなアーティストです。
シンプルなデザインがとても良いですね。
いま生きていたらどんな絵を描いていたのでしょう
by s-img (2009-11-15 17:51) 

持ってるよ～
懐かしい名前が出たね
獣医さんと相性が合うかな？
どうかな～(*^^*ゞ
by みゆきママちゃん (2009-11-15 19:02) 

キースのアートの原点は落書きにあり。。
落書きアートなんですよね。
テクニックを窮めた計算された作品より、感性の赴くままに表現された作品のほうが魅力的なのは何故なんでしょうね？

by ixion (2009-11-15 20:52) 

キースヘリングのシャツは私も持っています。
旧東急東横線桜木町高島町間高架下に描かれた
今は無きキースが書いた絵も知っています。（多分
皆さんもご存じだと思いますが、）（絵は今存在しま
せん。）なかなか良いものだったのに、いつの間に
か、変なロゴのイタズラ書きに埋め尽くされ、汚い
ものとなってしまい、なくなっています。寂しい。
by o_hiro (2009-11-15 21:24) 

セットでトーキング・ヘッズが出てきます。
by 2601 (2009-11-15 22:22) 

[メール]ファジーさん、ぼんくら息子たちもUNIQLO出だしてるキース･ヘリングＴシャツがお気に入りですよ♪　ホントに性別年齢の別なく人気があるし、着れるんですよね^^
by ぼんくらオヤジ (2009-11-15 22:28) 

[メール]s-imgさんも大好きですか！　デザイン関係の仕事をしている方には未だに絶大な支持がありますよね。健在だったら今ごろ、どんな仕事をしていたでしょうねぇ。バスキアと一緒に活躍し、一緒に消えていったキース。同世代の人間としては、もう少し時間を共有したかったですね。
by ぼんくらオヤジ (2009-11-15 22:28) 

[メール]みゆきママさんが持ってるのはＴシャツですか？　獣医さんとの相性ですか^^;　やっぱり突っ込まれたかぁ、仕方がないな。実のところ、牛子さんに対する冗談半分と、本気半分でした。本気ってどういうことかっていいますと、そうですねぇ、デリカシーのない人が犬猫のハートを掴めないことはみゆきママさんがいちばん分かってると思います。獣医さんは正にそうした生き物たちに短期間で信頼を得る人です。みゆきママさんの友達になることは誰でも出来ますが、獣医さん並みに繊細な感情を理解できる人でなければみゆきママさんの伴侶になることは出来ないんじゃないかっていう意味です。たぶん牛子さんも同じ意見じゃないかと思うんですが、牛子さん、違ってましたか？
by ぼんくらオヤジ (2009-11-15 22:29) 

[メール]ixionさん、キースに影響を受けて横浜で地道に活動を続けているロコ・サトシさんというアーティストがいますが、彼も常に落書きの精神を失わない人です。ああなればこうなるという論理というか因果律といったほうがいいのかな、これだと到達点は誰もが分かりますが、その分魅力はガタ落ちですよね（笑）　落としどころが分からない、あるいはオチなんてない方が面白いじゃないですか。落書きって無心に壁に向かえる分、あーなればこーなるから自由になれるんじゃないでしょうか♪
by ぼんくらオヤジ (2009-11-15 22:29) 

[メール]o_hiroさん、キースの絵のことはロコさんから聞いて知っていました。次の落書きに埋没して消え去ってしまうことは、きっとキース自身は肯定していたと思うんです。それでいいんだって。もちろんキース･ファンのボクらにとっては「畜生！」ですが（笑）。今はキースの精神を誰よりも理解しているロコさんが桜木町のガード下を引き継いでいますから、キースはきっと喜んでくれていると思いますよ^^　真似っ子ドンドンのウォールペインティングが大半ですが、その中から輝くアーティストが生まれてくれるといいですね。そんな子がいたら、ぼんくらはガンガン応援しまっせ！
by ぼんくらオヤジ (2009-11-15 22:30) 

[メール]2601さん、トーキングヘッズを始めとするニューヨーク･パンクやレゲエ、スカなんかはキース･ヘリングのアートワークとは切っても切れない縁がありますよね。この流れはキースの死後、ジャズ･インプロビゼーションとも影響を及ぼし合って独自のミュージック･シーンを作り上げていきます。キースはいろいろなものに影響を与えたと言っていいですよね^^
by ぼんくらオヤジ (2009-11-15 22:37) 

うちにもＴシャツありますよ～。シンプルで可愛いですよね。
キースが描いているところを直に見たなんて、すごい経験でしたね。
by たろす (2009-11-15 23:05) 

たろすさんと同意見（＾＾；生で見れたなんて幸せですね～♪
ワタシ、Ｔシャツも何もないけど知ってましたが、死に関する事は知りませんでした。残念ですね（--；エイズは多くの才能をさらって行ってしまいますね…
みゆきママちゃんトコでワタシへの冗談半分？！（－－；ワタシは常に本気100％全開で爆進してると言うのに（*￣▽￣*）だからママに突っ込まれるんですよ（笑）って事はさて置き、んん～まぁぼんくら神父に同感です（￣▽￣；だってね、こんなにプリンちゃんとメロンちゃんと相思相愛なのに其処へ割り込めるなんて獣医さんしか考えられないでしょう…半年後にはみゆきママ、昼間は看護士さんのスタイルですよ♪更新記事見なきゃまだ分かんないね（＾＾；
by 牛子 (2009-11-16 01:06) 

o_hiroさんが昔見た桜木町のガード下の壁画は、私も話題になる以前にすごく感動して中華街や山下公園行った帰りに友人を誘って何度も見に行きましたよ。グレーの壁に白いチョーク？で太く強い線、全長１００メートルくらいあったのかな？太古の壁画風で謎を私らに投げかけてましたね。友人と暇なやつもいるなぁと関心したもんです。
年月が過ぎて、なんだそこがか有名になって、他の人の落書きで埋め尽くされたと聞いた時は、とても腹がたちました。そのうち街角のポスターやグッズに彼のアートが使われ出して、ああ有名になったんだなと安心した覚えがあります。けれど、作者の名は知らなかった。
しかし、今日、o_hiroさんのコメント見てキースさんという人が書いたという事を知りました。なんか日本人離れしたセンスだとは思ってたんですけどね。
by ujiny (2009-11-16 01:19) 

キース・へリングがブレイクした頃、目を見張りました！
エピソードがありますが、今、想い出せない！[__あせあせ]
by tateichi (2009-11-16 01:52) 

キースはイタリアでもお皿やコーヒーカップ等の食器類にプリントされています。
私は少し遅れているかしら？
彼のデザインに目をとめたのは、５年程前でした。＾＾

私の友人に絵描きがいますが、似た者があります。
もちろん友人びいきですから、キースよりいいですよ。ふっふ、、
by Milu (2009-11-16 05:26) 

数年前、ユニクロでキースのデザインＴシャツが発売になった時、
ＫＵＮＮＫＵＮＮ〔美大出〕にキースの事、色々教わりました。
もしかして、ドイツのアンペルマンのデザインもキースかなぁ？

by ケセパタちゃん (2009-11-16 07:01) 

[メール]たろすさん、当時は全然ピンときてませんでした。人気のある路上アートのひとつにしか思ってませんでした^^;　Ｔシャツにサインをもらってる人もいたりして「あ～あ、シャツがもったいない」なんて思ってたぐらいですから。バカですよねぇ、あの時のことを思い出してみると、サインぐらいもらえたと思うんですよ（泣）
by ぼんくらオヤジ (2009-11-16 13:02) 

[メール]牛子さん、優れたアーティストは作品を生み出すのと引き替えに自分の人生を犠牲にする人が多いですよね。私らのような凡人には想像も付かない一生です。

みゆきママさんは、きっとお店にも看護士さんのスタイルで行くと思いますよ♪
by ぼんくらオヤジ (2009-11-16 13:02) 

[メール]ujinyさん、キースの作品を何度も見れて良かったですねぇ^^　私らのようなファンは作品が失われたことにショックや怒りを感じて当然ですが、やっぱり落書きアートとは、こういう刹那的なものなんでしょう。o_hiroさんへの返信にも書きましたが、キースは自分の作品に他の人々がどんどん落書きを加えていってやがて消えていくことに喜びを感じたんじゃないかと思ったりもするんです。これが自分流のパフォーマンスなんだと。…でも再現できませんかね、あの絵（笑）

by ぼんくらオヤジ (2009-11-16 13:03) 

[メール]tateichiさん、エピソードを思い出されましたらいつになっても構いませんので、ぜひお聞かせください^^
by ぼんくらオヤジ (2009-11-16 13:03) 

[メール]Miluさん、遅れてるだなんてとんでもないです！　それを言ったら、ヨーロッパの住民はみんな時代遅れじゃないですか(笑）　新しいものには先ず拒絶反応を示す。四の五のイチャモンを付けてるうちに、気付いてみれば「トーゼンでしょう！」みたいにスマした顔で受け入れてる社会ですもんね^^　お友達のアーティストにもポップアートをやってる方がいらっしゃるんですね。もしかしてJINSのデザインと関係がありますか？
by ぼんくらオヤジ (2009-11-16 13:04) 

[メール]ケセパタちゃんさん、UNIQLOのＴシャツはぼんくら息子たちが大好きで、同じデザインのが欲しかったりするとケンカのモトになってます^^　ＫＵＮＮＫＵＮＮさんは美大出なんですね、デザインの仕事でもされてるんでしょうか？　アンペルマンは旧東独の歩行者用信号機に使われていた人型のデザイン、ないしはそれを基に創られたデザインのことじゃないかと思います。初めて東ベルリンに行った時に、あの独特のデザインにはすぐに気が付いて感心しましたよ♪　特に赤信号が両手を広げて横断禁止を表していて、あっちこっちにあるいろんな"Verboten!(禁止！）"の看板と一緒に「あ～共産圏にいるんだなぁ」ってミョーな感慨に耽ったのを覚えています。
by ぼんくらオヤジ (2009-11-16 13:04) 

キース･ヘリングの絵は色々な所で目にするけど、生い立ちなどは知りませんでした。何かに才能のある人は、何処か悲しい生い立ちや、人生を歩んでいる気がしますね。ある意味平凡って人生においては幸せなのかも知れませんね。
by 井上酒店 (2009-11-17 00:07) 

[メール]井上酒店さん、何の根拠もない話なので意味はないかもしれませんが、ぼんくらは彼が何らかの傷を少年時代に負っているんじゃないかという気がして仕方がありません。目の前で見たキースも、映像で残っているキースも、どこか悲しげで何か重たいものでも背負っているかのように猫背なんです。多少、オドオドした印象もありましたし。少年時代のあるところで彼の時間を止めてしまう何かがあったんじゃないかという感想を勝手に持ち続けてきました。

平凡であるとは、たしかに幸せなことなのかもしれませんね。非凡であるとは、見えて欲しくないことが見え、聞きたくもないことが聞こえることなんでしょうから。彼が夭折したのは、神様がそういうしんどさから彼を解放してくれたからかもしれませんね^^
by ぼんくらオヤジ (2009-11-17 01:02) 

キース･へリングの創作過程を生で見たことがあるなんて、ぼんくらオヤジさん、すごいです！！
紹介してくださっている動画を見ましたが、淡々と、かつ的確に迷い無く線を引いていく姿が印象的でした。
このワンちゃんのペーパーホルダー持ってます。
ワンちゃんがプリントされたトレーナーも、息子に着せてました。（＾＾；
by びっけ (2009-11-18 22:55) 

[メール]びっけさん、当時はそんなにスゴい人だなんて思ってなくて、もらおうと思えばもらえたサインも…（泣）　集中力はスゴかったんじゃないでしょうか。結構な人が集まってるところで淡々と制作を続けていましたから。

このワンちゃんのペーパーホルダーとＴシャツですか、いいですねぇ^^　年齢性別に関係なく着たり使ったり出来るところがキース･ヘリングのアイテムのいいところですね。中には勇気の要るデザインもありますが（笑）
by ぼんくらオヤジ (2009-11-18 23:32) 

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