SSブログ

伝書鳩 [その他]

伝書鳩1.jpg ぼんくら少年はお隣の和ちゃんと遊ぶのが大好きだった。和ちゃんというと同級生みたいだけど、6才も年上のお兄さんだ。ぼんくら少年の部屋は和ちゃんの家の側にあったんだけど、夕方になると窓の外が急に騒々しくなるんだよね。木枠がガタガタする音に混じって、何かがカサコソとうごめくような気配とクゥクゥという鳴き声、そして和ちゃんが誰かに話しかける声が聞こえてくるんだ。
 ガラガラと窓を開けると、隣家の屋根に設えた奇妙な形の小屋で和ちゃんが甲斐甲斐しく鳩の世話をしているのが見える。
「お帰り!」
 と声をかけると、たいていは挨拶抜きで、
「手伝って!」
 という指令が返ってくる。飛んで行って立てかけたはしごを上り下りしながらバケツで水や餌を運び上げるのが任務だった。随分と危ない役目を仰せつかったものだけど、ぼんくら少年は嬉々として手伝った。それというのも、手伝うと後で鳩と遊ばせてもらうことができたからだ。
 粗製乱造の鳩小屋は糞の匂いが染み付き、床がしなって怖かったけど、数十羽の鳩がケージの中で立てる音とくぐもった声は何ともいえない心地よさを与えてくれた。そこで和ちゃんは、実際に鳩の掴み方を教えてくれたり、飼い方や訓練法を熱心に話してくれた。ほとんどは忘れちゃったけど^^; 不思議で仕方がなかったのは、和ちゃんが鳩の一羽一羽に名前をつけていて、ちゃんと区別ができたことだ。時折、訓練で飛び立たせた鳩が返ってこないことがあると、ポロポロと涙をこぼしながら、その鳩がどんなに可愛かったか、レースでどんな活躍をしたのかを延々と語り続ける心優しい少年だった。
伝書鳩3.jpg 1000キロ以上も離れたところから巣に戻ることができるといわれる能力を借りる伝書鳩は、古くは紀元前5000年にまで歴史を遡ることができるほど人との関わりが深い。日本では、特に昭和39年(1964)の東京オリンピックで、開会式に放鳩を行ったことから若者の間でブームになり、昭和44年(1969)には年間脚環登録羽数が400万羽弱に達してピークを迎える。その後は徐々に減少し、最近では鳩レースでの平均期間率が劇的に減少するという奇怪な現象が追い打ちをかけている。数千羽規模のレースに参加した鳩が全滅する事態が各地で頻発し、しかも原因が分からないというのだから恐ろしい。
 これは日本に特有の現象で、海外では発生していないというのだから謎は深まるばかりだ。猛禽類の大増殖説やケータイの電磁波影響説、スピード偏重の品種改良による悪影響説などが挙げられているけど、どれも推測の域を出ていない。一体、何が起きているんだろうね。
伝書鳩2.jpg 何にしても住宅地で鳩小屋を見かけるなんてことは終ぞ無くなってしまった。いい年のオジサンになっちゃった和ちゃんも、同じく伝書鳩マニアだったお父さんの死後、鳩の世界から手を引いてしまった。でも、ぼんくらオヤジは、包み込むように掴んだ時の鳩のぬくもりと、それを空に放ったときの突き抜けるような爽快感は未だに忘れられない。青空に吸い込まれるように消えていく鳩は、間違いなく平和の使者だった。


■伝書鳩の訓練 6才の子供たちがやってます。可愛いな♪■



にほんブログ村 オヤジ日記ブログ 駄目オヤジへ人気ブログランキングへ


nice!(16)  コメント(28)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 16

コメント 28

ファジー

伝書鳩・・・これまた思い出あります。
ウチの家では飼っていなかったのですが、近所に1軒ありまして、そこが鳩を放置したまま引っ越してしまったので、野良となった伝書鳩が我が家の軒で無断外泊するようになってしまいました。糞やら抜けた羽根やらで汚くなって婆ちゃんがぶつぶついいながら割烹着姿で掃除していた様を覚えています。
「鳩は鳥目なので夜は見えない」と聞かされていたので、ある夜物干し台で眠っていたヤツを手掴みで捉えたことがありました。野生の鳥(?)を捕まえたことなんて初めてだったのでメチャ興奮していた一夜を思い出しました。「ハト捕まえたでぇ」と喜び勇んで親に見せると、鳩には虫がついてるから早く放り出しなさいと言われてショゲていた小学校2年生でした。
by ファジー (2009-09-29 16:20) 

空楽

こんにちは
幼い頃に整骨院の近くに
鳩をたくさん飼っている家があったことを記憶してました。
最近、その整骨院は整形外科に代わってましたが、
鳩の家はまだあって、鳩がたくさん鳴いてましたよ。
by 空楽 (2009-09-29 16:24) 

みゆきママちゃん

幼馴染が駅で捕まえたと言って鳩を数羽、持ってきて『これあげる』って事があった
有難うといって離した
次の日にまた『また捕まえた』そう言って持ってきてくれて『あれっ?昨日の鳩は?』逃げちゃったの、の言葉に『駅には沢山の鳩がいるから、いつでも捕まえてくるよ』
その繰り返しをした時代があった
一時期、鳩を数十羽も飼う羽目になってたいへんだったっけ・・・・最後は再び離したけどね
だって全部に足輪が付いていたもん
・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)・・・・・
やさしい幼馴染だ
今でも幼馴染の友情は変わらない
幼馴染は男です
笑って話せる現在だよ(*^^*ゞ
by みゆきママちゃん (2009-09-29 17:47) 

ぼんくらオヤジ

@ファジーさん、昔から無責任な飼い主は後を絶ちませんね! 生き物を飼うのなら、どんな理由があっても最後まで責任を持たなければ。名古屋でも堀川で噛みつきガメが2匹も捕獲されましたが、次はワニ…なんて冗談のつもりでいたら、たった今、ニュースで豊橋市の池でワニが目撃されたって言ってます(驚愕)。わんにゃんはもちろん言語道断ですが、ワニだ噛みつきガメだとなると、日本の生態系はいったいどうなっちゃうんでしょうかねぇ^^; 
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 18:30) 

ぼんくらオヤジ

@空楽さん、鳩舎ってホントに無くなっちゃいましたから、今となってはその整形外科さんは貴重な存在ですね(笑) 昭和40年代は、世田谷の住宅街を歩けば1ブロックに1軒は鳩小屋があるって感じでした。記事に書いた和ちゃんの家にはご近所さんがよく鳩の糞を貰いに来てました。庭の土にすき混むと土が肥えて草花が元気になるって、ぼんくら母も喜んでました。今なら糞害だ何だと騒がれるのがオチですが^^;
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 18:41) 

ぼんくらオヤジ

@みゆきママさん、そりゃぁ優しい幼馴染みさんだぁ(笑) ちゃんと放してあげたみゆきママさんも優しいじゃん! だって、ぼんくらのところに来てたら、みんな料理になってたもんねっ(爆)
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 18:45) 

Mineosaurus

昔ウォルトディズニーの白黒のテレビ映画で伝書鳩のレースの物語を見たことがありますね。
by Mineosaurus (2009-09-29 19:53) 

o_hiro

昔は結構伝書鳩を飼ってレースの練習している人いましたよね!今、本当見ないですね!
by o_hiro (2009-09-29 20:07) 

ujiny

伝書鳩だけでなく、昔は、公園や神社などに行くと鳩がいっぱいいた。よく餌をついばむ群れに飛び込んで遊んだものです。
みんな何処へいってしまったんだろう。
by ujiny (2009-09-29 22:07) 

帰ってこない。

ぺりちゃんでっす。

伝書鳩って帰ってこないのもけっこういるみたい。
僕の取引先の部長さん(大手電機メーカー)がね、
何だか若い頃かやっていたんだよね。
レース用の鳩は相当ストックがいるらしい。
で、その部長さん曰く、やっぱりフォルムだって。
けっこうこの手の遊びもお金がかかるみたいね。

じゃぁね。
by 帰ってこない。 (2009-09-29 23:13) 

ぼんくらオヤジ

@Mineosaurusさん、ディズニー映画で「鳩と車イス」といって車椅子の少年と鳩の交流を描いたものがありますが、制作年が79年のようなのでこれじゃなさそうですね。ちょっと個人的に関心がありますので、調べてみます♪
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 23:26) 

井上酒店

流石に周りに伝書鳩と飼ってる人は居なかったですね。でも凄く賢いんですよね。それに平和の象徴ですしね。Love&Peace!!な僕には愛おしい鳩です。でも別に鳩山さんは愛おしくないですよ(爆)
by 井上酒店 (2009-09-29 23:26) 

ぼんくらオヤジ

@o_hiroさん、ホントにそうですよね! あんだけ定着していたかのように思えたものが、気付いてみれば消え去ってたんですから何とも不思議です。こういうものって探すと結構あるんじゃないですかね♪
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 23:34) 

ぼんくらオヤジ

@ujinyさん、それって実は大変に面白いご指摘で、公園や神社にたむろしてた鳩のほとんどは、帰巣できなかった伝書鳩が野生化したものだというお話があります。現在、飛び交っている鳩たちもその子孫だと。ウラは取れてませんが、面白い説ですよね。
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 23:38) 

ぼんくらオヤジ

@ぺりちゃんさん、やっぱお金がかかるんですねぇ! 記事で書いた和ちゃんが、のめり込みすぎて破産した人の話を聞かせてくれたことがあります。まあ金のかかんない遊びはないかぁ^^; (自戒) ※「帰ってこない」って、ぼんくらのブログには帰ってきてくださいよ~、さびしいから(泣)
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 23:44) 

ぼんくらオヤジ

@井上酒店さん、そーいや鳩山首相って、あのビックリしたような表情が鳩っぽいですよね(笑) Love & Peace!
by ぼんくらオヤジ (2009-09-29 23:45) 

peace9314

友愛を伝える鳩♪  うーーん いいね~(Y ^ ^ Y) 
by peace9314 (2009-09-30 00:25) 

neko5

先日はオヤジさまのお庭を挨拶もせずにぶらぶらしていてすいませんでした(^_^;)

子供の頃、少年雑誌に「伝書鳩777アラシ」という漫画が連載されていた事を思い出しました。
厳しいレースの中、主人公のレース鳩のライバル鳩たちが次々と死んで行くのを見て、脳裏に可哀相だけが植えつけられました。
勿論レースをされている方と鳩との間には愛情があるのでしょうが、当時はそれがあまり理解出来なかった事を覚えています。

by neko5 (2009-09-30 04:49) 

ケセパタちゃん

斉藤君家で、昔、飼っていたような・・・
記憶が定かではないのですが、
同じ飼うなら、卵を産んでくれるチャボの方が
美味しいのになぁ・・・と感じたのは、覚えています。
昔から、食い気だけで、生きていたのね、わたし。
by ケセパタちゃん (2009-09-30 06:46) 

ダー

そんな時代・・・ありましたね~♪ σ(^_^;)アセアセ...

by ダー (2009-09-30 09:01) 

タラオのパパ

そういえば、昔、「レース鳩0777(アラシ)」なる
マンガもありましたなぁ。。。
でも鳩はカラスに襲われるんですよね。
ウチの近くでよく死骸をみます。


by タラオのパパ (2009-09-30 13:15) 

ぺんちゃん

そういえば近頃鳩は見かけなくなってしまいました。。。
カラスはよく見かけるのに・・・・
鳩に限らず、昔はよく見かけたのに、今はすっかり見かけなくなった生き物が何だか多くなったような気がします。。。ペンちゃんが子供の頃よく家にクワガタムシが飛んできていましたよ・・・
ホントさびしくなりました(T_T)
by ぺんちゃん (2009-09-30 13:23) 

ぼんくらオヤジ

@peaceさん、昭和の鳩ブームは馬鹿ウケしてその後知らぬ間に廃れてしまいましたが、平成の鳩ブームはどうなるでしょうか! 乞う御期待!!
by ぼんくらオヤジ (2009-09-30 16:20) 

ぼんくらオヤジ

@neko5さん、『レース鳩0777』は名作ですよね! 結構辛いエピソードが出てきますが、あの過酷さは本当だったようです。レースに夢中になるのはともかく、命を預かっているという認識の乏しいオーナーが残念ながら多かったのも事実で、そんな環境で飼われていた鳩たちは悲惨な境遇の下で命を落としました。飽きたら放せばいい、という安易な考え方も蔓延していたそうです。そんな中で、あるべき姿を訴え続けた作品といえるかもしれません。また読んでみたいなぁ!

ははは、庭かどうかはともかく土地柄、結構なブロガーさんとニアミスをしてるんですが、お会いできたことは一度もないんです。会って疲れるタイプじゃないと思いますので、こちらにいらっしゃることがあって気が向いたら、ぜひ声をおかけください♪
by ぼんくらオヤジ (2009-09-30 16:31) 

ぼんくらオヤジ

@ケセパタちゃんさん、チャボのほうがいいですねぇ、ぼんくらも(笑) ただ子供の頃、よく近所で飼われていたニワトリに追いかけられたトラウマがあるので、見ると足がすくみますが^^; 食い気というか、女の人は実用的でないものにはあんまり関心がありませんよね。その意味じゃ鳩レースなんて、ねぇ(笑)
by ぼんくらオヤジ (2009-09-30 16:35) 

ぼんくらオヤジ

@ダーさん、何気に意味深なリアクション、ありがとうございました(笑)
by ぼんくらオヤジ (2009-09-30 16:36) 

ぼんくらオヤジ

@タラオのパパさん、『レース鳩0777』のお話はneko5さんへのコメントにも書きましたが、いいマンガでしたねぇ! 読んだのは大学生になってからでしたが感動しました。それにしてもカラスが鳩を襲うことは知らずにおりました。名古屋市内もカラスがとても目立つんですが、鳩の激減と関係があるんでしょうか? 恐ろしいことではあります。
by ぼんくらオヤジ (2009-09-30 16:41) 

ぼんくらオヤジ

@ぺんちゃんさん、ご指摘の点、ぼんくらもそう感じていましたので背筋が寒くなりました。例えばスズメですが、ホントに少なくなりましたよね! 以前は喧しいほど群れてさえずっていたのに、最近では見かけると「あ、いた!」って感動するぐらい出会えなくなっています。クワガタも、今時の子供たちはデパートのペット売り場かホームセンターで買うものだと思っていますしねぇ^^; 薄ら寒い思いがしますね。
by ぼんくらオヤジ (2009-09-30 16:47) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。