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見せ物小屋とヘビ女 [その他]

ヘビ女1.jpg ぼんくら少年は両親の都合で、通算して2年余りを福島の温泉町で過ごした。率直に言って、あまり良い思い出はない。親元を離れなきゃならなかったし、今じゃ想像も出来ないほど当時は都会と田舎では言葉も生活様式も外国並みに違っていたし、違っていること自体が排斥の理由となる時代でもあった。
 先生もグルになっての集団のイジメに遭いながらも少しずつ友達が出来はじめた頃のこと、地域で長い伝統を誇る祭りがあった。町中を太鼓の鳴り響く屋台が行き来する勇壮な祭りは各地からから大勢の観光客を集め、祭りの中心となる神社の境内には、たくさんの露店に混じって幽霊屋敷や見せ物小屋が建ち上がった。
 裸電球やスポットライトの光が彩る華やかな夜の景色とは真逆に、昼間の境内は人もまばらで物憂げなムードが漂う。学校が休みになることもあって、スマートボールや射的の客も大半は子供たちだ。的屋のおじさんたちも遊び半分。当然のように見せ物小屋もガラガラで、内容も子供たちに合わせてくれたのか、昼間の演目に鶏やヘビの生き血を飲むような残酷な見せ物は外されていた。
お化け屋敷.jpg 好奇心の強いぼんくら少年にとって、見せ物小屋は、当時の愛読書だった『プリニウスの博物誌』そのもので、小遣いを使い果たしてでも観たい出し物が目白押しだった。人間火炎放射器や箱抜けなどの奇術やヘビ女、ドッグショー、奇形の動物たちが舞台に現れては消えていく。あれは、引田天功が大枚はたいて創り出すイリュージョンが安っぽく思えるほどに、いかがわしく、幻想的だった。
 6年生の秋のことだ。祭りを観たくて福島を訪れたぼんくら少年に、ちょっとしたサプライズが待っていた。見せ物小屋の裏手をブラブラしていたら、テントの楽屋口が半分めくれているのが目に飛び込んできた。好奇心に駆られて中を覗き込むと、そこには大きなニシキヘビを肩に載せたヘビ女がゴザの上にぺたりと座っていた。目が合うと、ヘビ女がおいでおいでをする。
「ちょうど遊んでやってたんだ。抱かせてあげるからおいで」
 重いから座ったほうがいいというので、靴を脱ぎゴザの上に座ると、ヘビ女はぼんくら少年の肩にヘビを載せてくれた。重い! 頭を撫でてやってと言われたけど、体を支えるのが精一杯でとても無理だ。
「坊やは力がないねぇ! アタシの膝の上に乗んな」
 言われるままにちょこんと膝に座ると、ヘビ女は自分の肩にヘビを載せたまま、ぼんくら少年を抱きかかえるようにしてヘビを触らせてくれた。ヘビは思いのほか可愛かった。頭を撫でてやると、舌をチロチロと出しながらじっとしている。そして止めると、おねだりをするように頭を左右に振るのだ。肌がヌルヌルしていなくて乾いていることや、体温が高いこともその時に知ったんだけど、ぼんくら少年の心中はヘビとの付き合いを楽しむどころではなかったのだ。何故かというに、ぼんくら少年が母親以外の女性から抱きしめられたのはこれが初めてだったし、その時ヘビ女は着物がはだけてトップレスの状態だったからだ。体にガッチリと巻き付いた白いふくよかな腕から立ちのぼるドーランと汗の入り交じる匂いと、薄いシャツを通して伝わってくる乳房の感触で半分、頭の中が白く飛んでいたわけで。
ヘビ女2.jpg 長い時間だったような気がするんだけど、実際は数分のことだったかもしれない。ヘビ女がぴたりとお喋りを止めたのでチラリと見上げると、彼女は無言で泣いていた。彼女が若いお姉さんであることにも気付いた。どうしていいか分からずにそのままでいたら、やがて彼女の腕の力が抜けた。
「もういいだろ。これ以上は金をもらうよ」
 ぼんくら少年はフラフラと立ち上がると、礼もそこそこにテントを立ち去った。見せ物小屋を観るために来たのに、どうしてか気が重くて、結局、一度も小屋に入ることもなく帰京してしまった。以来、今日のこの日まで見せ物小屋に入ったことはない。もしかすると、ヘビ女のお姉さんも幻想だったのだろうか。






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miopapa

子供の頃、近くの神社の毎年開かれるお祭りに
よくテント小屋が出来、こんな見せ物が・・・・・
怖いくせに、何となく興味もあり
親父の手を握ったまま小屋の前で
ジーッと、
呼び込みの小父さんの声/説明を聞いてた覚えが
by miopapa (2009-08-26 18:47) 

牛子

私も幼い頃に北海道神宮祭で幾つかの見世物小屋に親に手を引かれ入った記憶があります。昼間でした。へび女もありました。
ぼんくら様は蛇が苦手ではないのですね(汗)
見世物小屋とは一種独特な印象があり、子供心にもあまり楽しいという思い出なく、以来自分で入った事はありません。自分の子供も連れて入った事ありません。
お姉さんの事思うと何だか悲しくて胸が痛むのは何故なんでしょう…
ぼんくら様、私と同じ歳で、当時から先生もグルになった集団イジメに遭遇したのは驚きです。当時から本州の方が教育面で先を行っていたのでしょうか…
by 牛子 (2009-08-26 19:07) 

ばぁちゃん

マセた子だね・・・

私は巳年、蛇女♪
by ばぁちゃん (2009-08-26 20:35) 

井上酒店

しかし凄い体験したものですね(苦笑)そりゃ、一生忘れられませんね。しかし見せ物小屋って、僕からしたら絶対に入ったらいけない場所ってイメージでしたね。今考えても、完全に人種差別じゃないですか?今でもお祭りの時に大きな神社に行くと出てますが、未だに入る勇気無いですね。
by 井上酒店 (2009-08-26 20:44) 

スクムビット

今日のネタは秀逸ですねえ。

「もういいだろ。これ以上は金をもらうよ」と言ったヘビ女の涙の裏に物語を感じさせますね。

都会から福島の温泉町に来て寂しく暗い気持ちになっていた少年のなまめかしい体験。
こりゃもっとふくらませていけば小説になりそう。
そしてその小説が映画化されたときのワンシーンまでもが想像できます。


by スクムビット (2009-08-26 23:04) 

ぼんくらオヤジ

miopapaさん、お父様の手をしっかりと握るお姿が浮かぶようです。
呼び込みの口上って、内容は覚えていないのに強く記憶に残って
いますよね、何でなんだろう? 不思議です。
by ぼんくらオヤジ (2009-08-26 23:12) 

ぼんくらオヤジ

牛子さん、北海道でも見せ物小屋が巡回興行をしていたんですね。
見せ物小屋に良い印象をお持ちにならなかったのは、牛子さんが
見せ物小屋の歴史的な背景を感じ取っていたからかもしれません。
昭和の初期まで、見せ物小屋は性行為を飾り窓的にみせたり、
親に売り飛ばされた年端もいかない女の子を売春させたり、
身体に障害を抱えた方を見せ物にしたりしていたという陰惨な
過去を背負っているんです(もちろん全部の見せ物小屋がそうだった
ワケじゃないですよ)。

ぼんくらが福島で虐められたのは、教育事情が先を行っていたんじゃなく、
当時の東北の閉鎖性と、(言い切りますが)当時からすでにいた
とんでもない教師がいたという事実が不幸にも重なってしまったと
いうことだと思います。ヒドい思いをしましたが、いい体験にもなりました^^。
by ぼんくらオヤジ (2009-08-26 23:24) 

ぼんくらオヤジ

ばぁちゃんさん、そりゃあ違いますぜぃ♪
マセガキだったからそーなったんじゃなくって、
この経験のおかげでマセガキになったんですぅ、フォオ♪

by ぼんくらオヤジ (2009-08-26 23:28) 

セッチー

ふかい話ですね~。ヘビ女を通して、大人の女性のなまめかしさと複雑な心中を垣間見てしまったのですね。無言の涙はこたえましたでしょう。感受性の強いぼんくら少年でいらしたのですね。

実は、偶然にも一昨日、秋の花園神社のお祭りに出ている見世物小屋のヘビ女の演出を見たというかたの話を聞いて、一度も見たことのない私は好奇心がムラムラ動き出し、以前から一度は行きたいと思っていましたので、今年こそ、観に行くぞと心に誓ったばかりでした。

う~ん、いろいろ考えさせられました。
ありがとうございます。
by セッチー (2009-08-26 23:34) 

ぼんくらオヤジ

井上酒店さんも優しい方ですねぇ^^
見せ物小屋の歴史的背景については牛子さんへのコメントに委ねますが、
暗い背景があるのは否定できない事実なんです。ただ、その悲しい過去は、
そこで働く芸人さんや裏方さんに負わせてはいけないとも思います。
むしろそういう役割を負わせた当時の社会にこそ罪があるといいたいです。
社会的弱者であった人々が寄り添い合いながら必死になって生きてきた
場こそが見せ物小屋だったとも言えるのです。最盛期には数百を数えた
見せ物小屋も現在はたったの2つ。社会がそれだけ良くなったのだとも
いえますが、例えば人種差別は、アイヌに対する政策や外国人労働者に
対する身勝手な政策でも浮き彫りになっているように、国策レベルで
行われています。個人的には、新たな見せ物小屋が生まれないことを
切に祈っています。
by ぼんくらオヤジ (2009-08-26 23:45) 

ぼんくらオヤジ

スクムビットさん、褒めてくださってありがとうございます♪
福島の温泉町では、いろいろな人々との出会いがありました。
旅回りの芸人さん一家、ストリッパーのお姉さん、オヤジさんが
ヤクザだった友達等々。皆、過去に辛い思いをされていて、それ
だけに他人の痛みを分かることができる心優しい人々でした。
ヘビ女のお姉さんには、彼らと同じにおいを子供心に感じていました。
今でも、ぼんくらは彼らを思い出すと深い敬意を覚えます。
by ぼんくらオヤジ (2009-08-26 23:55) 

ぼんくらオヤジ

セッチーさん、実際、面食らってぼんくらも無言だったんですが、
不思議に「このままでいよう」って気持ちになっていたんです。
いま思っても、知らずしていちばんベストな選択をしんじゃないかと(笑)。

見せ物小屋のヘビ女をご覧になるんでしょうか? 大人向けは相当に
グロテスクなんですが大丈夫ですか(笑) 今回の投稿ではUPしなかった
んですが、YouTubeには実際のステージの動画がありますよ♪

by ぼんくらオヤジ (2009-08-27 00:10) 

tateichi

渡世の裏を垣間見たのですね。
札幌大通り公園の露店なども、今は市が運営しているそうです。全国的にそういう傾向になっているのですね。

加担するわけではありませんが、フーテンの寅さん達の時代は人情もあり、好景気時代でもありました。擬似平和!現在は犯罪大国で、もっとひどい事になっています。
by tateichi (2009-08-27 00:17) 

ぼんくらオヤジ

tateichiさん、最近のお祭りは自治体や地域が主催しているものが
増えてきましたねぇ。これは決して悪いことではないんですが、こーして
的屋さん達を追い出せば暴力団が弱体化して世の中が健全になるか
っていえば、彼らは死にものぐるいでオレオレ詐欺や麻薬・覚醒剤など
もっと危険で陰湿な犯罪に走って社会を根底から蝕みつつあります。
もちろん的屋さんは一例で、古くは暴力団新法あたりからこうした
問題を捉え直す必要があると思うんです。仰る通りで「疑似平和」が
何故危ういかというと、物事は実体があれば必ず影ができるという
真実を認めない点にあると思います。清濁併せ持ちながらバランスを
とることは歴史と伝統のある国なら不可能ではないと思いますが、
どうでしょうか?
by ぼんくらオヤジ (2009-08-27 09:02) 

ファジー

大阪でも見世物小屋はほとんど姿を消しましたね。
大学生のとき住吉大社の夏大祭で見たのが最後です。
白熱灯に照らし出されたテントのおどろおどろしい絵が大好きでした。
人間獣児・白衣の小頭女などなど・・・このネーミングが奇異にて悲哀なるものを感じさせ、見たいという気は起こらなかったですね。

話はかわりますが、♪小伝馬町より引き出され~ホイ♪の「のぞきからくり」はご覧になってことありませんか?
by ファジー (2009-08-27 16:10) 

ぼんくらオヤジ

さすがはファジーさんですねぇ^^!
ええと「先には制札(せぇさつ)紙のぼり 同心与力を供に連れ♪
はだか馬にと乗せられて 白い襟にて顔隠す」でしたね。これって
たしか長いんですよね(笑) 高校時代に演劇部の発声練習に
使っていて、その時は全部覚えていたんですが、もう記憶力が…^^;
「のぞきからくり」は亡父がよく話してくれたので親しみがあります。
残念ながら本物を覗いたことはないんですが、ファジーさんはきっと
ご覧になってるんじゃないでしょうか。差し支えなければ、ご感想など
お聞かせ願えませんか^^♪♪♪
by ぼんくらオヤジ (2009-08-27 18:42) 

ファジー

♪ホイ 可愛顔して人形町を、これで命の尾張町を・・・♪と粋な文句が続いてました。しかしこれで発声練習とは・・・仰天です。

「のぞき」については、パタパタと戸板を組み立てたような装置は、目にしたことがあるんですが、実際にのぞいたことはないんですよ。というか敢えて覗きませんでした。
これというもの、小学生のとき同級生から「のぞきからくりはつまらんぞ。人形が張り付いた板をオッサンがケッタイな歌唄いながら、紐で上げたら次の場面になるだけで紙芝居みたいなもんや。人形はボロで所々から綿が飛び出しているし・・・」と散々に聞かされていたためでしょうか。
思えば、人に意見に左右され、体験する機会を逸し、残念なことをしたものでした。

ところで、映画の「時代屋の女房」で夏目雅子が、不如帰の一節のパロデイ判ともいえる歌を唄いながらこれを演じてましたね。

♪~武男がボートに移るとき~浪さん赤い腰巻をヘソまで上げてネェあなた、これに未練はないかいな~♪

この映画を見たとき・・・これや~!!と叫んでしまいました(笑)
by ファジー (2009-08-28 09:46) 

ぼんくらオヤジ

ファジーさん、演劇部の顧問が指導にかけては超有名だった方で、
外郎売りのせりふから始まって、いろんなもので発声練習をさせられ
ました^^;

「のぞきからくり」を体験できなかったのは残念でしたが、友達から
それだけ言われたら、ぼんくらだって止めにしますねぇ(笑)
いつでしたか「開運なんでも鑑定団」で非常に状態のいいのぞきからくりが
出品されていましたが、それは大正(明治だったかな)につくられた新しい
ものでした。できたら江戸の庶民が楽しんだものを覗いてみたいですねぇ♪

「時代屋の女房」でそんなシーンがあったんですね!
江戸時代には春画ののぞきからくりもあったようですから、
もしかするとその辺にヒントを得た脚本だったのかもしれませんね。
個人的な趣味でいうと、景色をみるよりもそっちのほうがいいんですが(爆)

by ぼんくらオヤジ (2009-08-28 12:15) 

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