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駄菓子屋 [食]

 自宅の隣が駄菓子屋だった。3畳ほどのスペースに駄菓子とパンだけの品揃え。お店のおじさんとおばさんは、ぼんくらオヤジが小学校低学年の時分には既に50を超えていた。お客の子供たちにお愛想を言うでもない。どっちかといえばぶっきらぼうといってもいい客あしらいだった。それでも子供たちはこの店に足げく通った。他に店がないわけじゃなかった。行って得になることがあるわけでもなかった。そんな無愛想で何の取り柄もない店に、何ともいえず居心地の良さを感じていたのだ。
 3年生の時だった。いつものように小遣いを半ズボンのポケットに突っ込んで、ぼんくらオヤジは店に行った。
「こんにちはー」
 こんなふうに声をかけないと、いつまでたっても誰も出てこないのだ。この時は、店の奥から、
「買うものが決まったら、また呼んで~」
 というおじさんの声が聞こえてきた。おおかたトイレにでもいたんだろう。
 辺りを見回すと、ぼんくらオヤジはいつにもまして駄菓子が自分に迫ってくるような不思議な感覚に襲われた。そして、ちょうど目にとまったオレンジ味のフーセンガムに手を伸ばし、黙ってお尻のポケットにねじ込んだ…。
 我に返ってニッキ水をつかむと、おじさんを呼んだ。努めて平静を装ったつもりだったけど、お金を渡す手がかすかに震えたのを覚えている。お金を受け取り、
「はい、どうも」
 と言うと、おじさんはいつものように店の奥に姿を消した。何ともいえず息苦しくて、ぼんくらオヤジは店を飛び出した。それでも気になって振り返ると、店の奥からじーっとこちらを見つめているおじさんに気付いた。別に責めるような視線ではなかった。分厚いメガネの奥から、ただ無造作にこちらをみつめていた。うろたえたぼんくらオヤジは意味もなくおじさんに一礼をして、近所の神社に駆け込んだ。
 そして辺りを見回して誰もいないのを確かめると、ポケットからガムを引っ張り出した。箱は潰れ、中に入っていた丸いオレンジ色のガムがはみ出している。おじさんは知ってたんだ。何も言わなかったけど、おじさんは自分のしたことに気付いていた。そう確信した途端に、ポロポロと涙が出てきた。そして泣きながら、落ちていた枝で地面を掘り、ガムを埋めた。40年も前のことなのに、あの時のことは鮮明に覚えている。
 あれが最初で最後の万引きになったのは、おじさん、貴方のおかげです。その後、何度もチャンスがありながら詫びることもできないままに、貴方は逝ってしまった。今更とは思うけど、おじさん、ごめんなさい。そしてありがとう!


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miopapa

何だか、自分の子供の頃の様子や
  少し前に見た映画「三丁目の夕日」に出てくる情景等々と
   自分の周りをも含めた世の中が、決して裕福でもなかった時代の
 大人達の、我が子に限らず見守り育ててくれていた
   そんな社会の存在を今更ながら感じつつ、少しホロッと来ました。

  感激と感謝です!!
by miopapa (2009-06-25 11:17) 

ぼんくらオヤジ

miopapaさん、内容の深いブログを提供して頂いて、
感謝しなければならないのぼんくらオヤジのほうです。
改めて御礼を申します。
仰るとおりで、昭和20~30年代に少年時代を過ごせた方は
もしかすると本当に幸せだったのかもしれませんね。
我が子の現在は、その頃と比べると実に寒々としていますから。
by ぼんくらオヤジ (2009-06-25 16:20) 

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